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「すまんが、桜花と二人にしてくれんか」
高杉は襖の傍に立ち尽くしている桜司郎へ手招きをすると、坂本とおうのへ目配せをした。
桜司郎は坂本と入れ替わるように、枕元へ座る。https://www.nuhart.com.hk/blog/new/2021/05/20/%E3%80%90%E7%94%B7%E5%A3%AB%E8%84%AB%E9%AB%AE%E3%80%91%E8%AA%8D%E8%AD%98%E8%84%AB%E9%AB%AE%E5%85%88%E5%85%86%E5%8F%8A%E6%88%90%E5%9B%A0-%E5%81%9A%E5%A5%BD%E8%84%AB%E9%AB%AE%E6%94%B9%E5%96%84%EF%BC%81/ だが、何から話して良いのか分からず、居た堪れない気持ちで膝の上に置いた拳を少し握った。
何処と無く気まずい空気と共に静寂が部屋を包む。先に口を開いたのは高杉だった。
「……桜花。壬生浪の奴らは、君に良くしてくれるか」
「はい。とても良い方達ばかりです」
肯定を口にする桜司郎の表情は柔らかく、それが真実であることが分かる。それを見た高杉は優しげに目を細め、口角を上げた。
思えば、高杉は"桜花"の面影ばかりを求めて、今の桜司郎を見ていなかった。もう出会った時の少女は何処にもいないというのに。
「ほうか……。確かに、出うた時よりずっと良いをするようなっちょる。色んなモンを見てきたんじゃな」
「そう、ですね。楽しいことも、悲しいことも沢山ありました」
この二年間はあまりにも濃い時間だった。まさに生を実感出来るといっても過言では無い程に、多くの命に触れた。
「ほうか。良けりゃあ、君が見てきた景色をこの高杉に聞かせてくれんか。……きっと、こねえして話すんは最後になるじゃろうから」
最後という言葉に胸の奥がちくりと痛む。その求めに応じ、桜司郎は多くのことを高杉へ聞かせた。
使用人として働いていた八木邸の家族が良い人達だったこと。美味しい饅頭の店があること。どこそこの紅葉が綺麗だったこと──
それは情報の欠片も無い、たわいもない日常の話しばかりだったが、高杉はそれに楽しそうに耳を傾けた。むしろそれが良かったとすら思える。金や権力、血腥い世界に身を投じすぎたためか、心のどこかでこのように穏やかな時間を欲していたのかも知れない。
「何じゃ、桜花は侍になっても中身は変わらんのう。……のう、君から見たこの世はどうじゃ」
「この世、ですか」
「ああ。僕はな、この世はつまらんと思うちょる。僕が語りあった友らはもう居らん。じゃからか、面白うないんじゃ。……ただ、国のために動いちょる時だけが満たされよるように思う」
ぽつりと呟く高杉の目は、過去を慈しむかのように遠い何処かを見ていた。彼の時間は、師や友を失った日から止まっているのかも知れない。
生きるために、生きている自覚を得るために。この世を去った者らの思いを背負い、命を燃やして走り続けているのだ。