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なるように仕向けたんは僕じゃけえ。その責があるじゃろうて。病はただの言い訳にしかならん……」
高杉は同胞である吉田や久坂らを次々と失った後、倒幕への決意を固める。しかし、その当時の長州藩は幕府へ恭順するという保守派が実権を握っていた。考えが異なる高杉は危険分子として排斥されたが、一昨年の冬に功山寺にて挙兵し、保守派から実権を奪うことに成功したのである。
それ以来、長州は倒幕へと傾倒していった。https://www.easycorp.com.hk/blog/%e3%80%90%e5%85%ac%e5%8f%b8%e5%af%a9%e8%a8%88%e3%80%91%e5%85%ac%e5%8f%b8%e5%af%a9%e8%a8%88%e6%98%af%e4%bb%80%e9%ba%bc%ef%bc%9f%e9%9c%80%e8%a6%81%e5%a6%82%e4%bd%95%e9%80%b2%e8%a1%8c%ef%bc%9f/ つまり、高杉無くして今の長州はなり得ないのである。
それを己の身を削ってでも先導せねばならぬ責としていた。
「木戸さんは流石じゃった。危険を顧みずに京へ行くと言うちょった。犠牲なくして倒幕はならんと分かっちょる。……あん人なら、僕が居らんでも長州を導いてくれよるわ」
「高杉……」
坂本は胸が熱く震えるのを感じ、高杉の細い手を握る。人は人に勝てても、病には勝てない。それでも必死に国のために生きている姿には感銘しかなかった。 ひやりとした高杉の体温に反して、坂本の手は温石のように熱い。高杉はその感覚に思わず苦笑いを零した。
「何じゃ、ゴツい男から手ェ握られても気味が悪いっちゃ。……そういや、桜花はどねえした」
「桜司───桜花さんは別の部屋におるがよ」
"桜司郎"と言いかけた坂本の言葉を聞き、高杉は少し寂しそうに瞳を閉じる。
「……何じゃ、坂本はもう聞きよったんか。あれが壬生狼の侍になったことを」
その時、丁度桜司郎は茶を差し入れようと部屋の襖の前にいた。部屋の中から聞こえてきた言葉に目を見開き、声が出ないように両手で口を塞ぐ。
「な、高杉……おまさん知っちゅうがか」
「そりゃそうじゃ。ただの女中が幕府の訊問使に同行する道理が無いじゃろう」
高杉は頭の後ろで腕を組むと、天井を見た。
「ほりゃあ、そうやけど……。、気付いちゃーせん振りをしたがかえ」
「そりゃあ、決まっちょるじゃろう。僕ァ桜花を傍に置きたかった。幕府の犬やと認めてしもうたら、長州へ置いておけんようになるけえ。……坂本、にはまだ分からんと思うが、人間は死ぬると悟った瞬間に貪欲になるものなんじゃ」
何よりもを思っている高杉は、今まで自分自身のために行動したことは無かった。だが、死の影を感じた途端に、世の道理を踏み越えた行動をしてみたい気持ちになったのだ。
───それが人攫いというのも、器の小さい人間のようで笑える話じゃ。こねえな真似をしても、人の心は動かんと分かっちょった筈じゃが。
「じゃけど、僕の胸だけに秘めておけん今は……もう置いておけんのう」
残念じゃ、とぽつりと呟いた。坂本へ素性を話したということは、桜花は長州を離れる選択をしたということだと直ぐに察する。
腕を額に乗せ、視線を坂本の向こうの小窓へ向けた。雪を溶かすような陽射しが煌々と射し込んでいた。と出会った当時、雪のような女だと思った。溶かしきれない孤独を身に纏ったような、寂しい女だと。だが、もう彼女は陽のあたる場所に自らの力で居たのだ。
高杉は口角を上げると、今度は廊下へ続く襖を見遣る。
「桜花。いつまでそこに居る。廊下は冷えるけえ、入って来い」
そのように声を掛ければ、少しの間の後におずおずと襖が開き、桜司郎が入ってくる。
高杉はおうのも呼び付けると、何かを耳打ちした。すると、おうのは風呂敷に包まれた何かを持ってくる。