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やがて、お開きとなり料亭の前に出る。娘の父親は機嫌が良さそうに土方の肩へ手を置いた。
「土方殿、此度は有難う存ずる。お陰で我が娘も諦めがつきそうだ」
「……いえ」
「それにしても、麗しい娘御からあのように想われているとは、體外射精 憎い男だな。男として羨ましい限りだよ」
ハハハ、と豪快に笑うと桜司郎へ視線を移す。
「ところでお嬢さん……。少しだけ土方殿をお借りしても宜しいかな?」
「それは──」
流石に一人にする訳にはいかないと、土方が口を開いた。だがそれを遮るように、桜司郎は言葉を発する。
「はい。歳三様をよろしくお願いします。本日は有難うございました。……歳三様、私は先に戻っております」
恭しく一礼すると、背を向けて歩き出した。それを土方が追い掛ける。
「……おい、一人歩きは危ねェから待っていろよ。直ぐに話しも切り上げてくるから」
「直ぐそこですから。人通りもありますし。……あの方、幕府のお偉方なんでしょう?しっかり新撰組を売ってきて下さい」
挑発するようにニヤリと笑えば、土方はたじたじになった。着飾っていつもの桜司郎とは違うからか、どうも調子が乱される思いである。
「ち、調子に乗るな!……ったく、言われなくてもそうする!」
まるで子どものような言い方に、桜司郎はくすくすと笑った。そして再度一礼すると茶屋へ向かい歩いていく。
祇園社や高台寺の前を通り、二寧坂へ差し掛かった辺りで遅咲きの桜が視界に入り、桜司郎はふと足を止めた。
──そう言えば、高杉さんと昔ここを歩いたっけ。
右も左も分からずに、不安と孤独に押し潰されそうな心地だったが、快活に堂々と闊歩する高杉を見ているだけで心が奮い立たされたことを思い出す。──沖田先生は、どちらが目当てなんだろう。飴だけなのか、それともあの綺麗な人……か。
隠れながらも、どうしても沖田のことが気になって仕方がない桜司郎は目でその姿を追う。すっかり逃げてしまえば良いのだが、離れられなかった。
花街の綺麗所よりも、甘味や子ども達と遊ぶことを何よりも好んでいる沖田に限って、看板娘目当てということは無いとは信じている。
だが、もしもそうならばと考えるだけで心がモヤモヤとした。
──どうしてこんなにも気になるのだろう。どうして隣に居られないだけで寂しくなるのだろう。
そんなことをぼんやりと考えていると、丁度沖田は店の中へ入ろうとしていた。
しかしその足はピタリと止まり、顔を苦しげに歪めては口元を押さえる。そして一歩二歩と後退り、店から距離を置いては、背を丸めながら咳き込み始めた。
大きく肩を揺らし、眉を寄せ、照り付ける太陽の下であっても何処か青白い。道行く人々は誰も助けようとはせずに、遠巻きにその姿を眺めるだけ。
それを見ているだけで斬り付けられた時よりも胸が痛んだ。手を添えた柱に無意識のうちに爪を立てる。
──いやだ、いやだ。沖田先生が一人で苦しむのは耐えられない。
「……せんせ、沖田先生!」
桜司郎は思わず小路から飛び出すと、沖田の元へ駆け寄った。
その声に反応したのか、沖田は伏せた顔を僅かに上げる。そして桜司郎の格好を見てはみるみる目を見開いた。
「ゲホッ、桜司郎さ、その格好……は、ゴホッゴホッ!」
「こ、これは……。それよりも休めるところを探しますから」
「大した、ことは……」
桜司郎は沖田を支えると、人の目につきにくい小路へゆっくりと向かう。人前に晒されるのを沖田が嫌がるのを知っていたからだ。
目を引くような美しい女と、明らかに病に冒された男。それは大衆の興味をそそられるのは必然であり、注目を浴びていた。
そこへ近付く影がある。
「あのう。良ければ、うっとこの店で休まれてはいかがどす……?」