「華江さんは俺に会いに来たんだろう。目的は分からない。華江さんが俺を好きとか倫子は考えてると思うけど、それはない。昔から彼女は俺たち三人を見てはいつも揶揄う様な事をしてた。それを楽しんでた。そこは理也や司に聞いて貰えれば分かる。結婚式には母方の実家まで招待していないだろ?帰国してから周りから結婚の事を聞いたと思うんだ。司に連絡したらお祝いのカードは届いてたって。知らなかったのでお祝い遅くなりましたってね。」
「お祝いを言いに来た…とは思えないんだけど?」
怒っている顔ではなく、訳がわからないという顔をして倫子は小首を傾げていた。
肩に腕を回して、自分の方へ体を預けさせる。
過去の自分に言いたい、興味本位で好きでもない人とするな、将来出会う大事な人を傷付ける…今なら分かる事だが、当時の倫也には若さと衝動に流された一夜の遊びに過ぎなかった。
「華江さんとの小さい頃の話とか、話すよ。ただ…今はさ、赤ちゃんに集中して欲しい。華江さんには家に来ない様に今日の帰りに言っておいたし、就職先の情報はしっかり渡した。母さんにも言われたけど浮気とか絶対ないから!ごめんな?また不安にさせたよな。」
そう言って倫子の顔を覗く様に見ると、きょとんとした表情の倫子が顔を斜め上に向けた。
「大丈夫だよ?あのね、最近ね、多分、武藤さんと対決した辺りからだと思うんだけど、少しずつ気持ちが落ち着いて来たのが自分でも分かるの。うーん、上手く説明出来ないんだけど………なんていうのかな?前は何か言われるとそうなんだって全部悪い方へ考えちゃってたんだけど、今はね、なんか、うーん、そうなのかなぁ。そっかぁ、みたいなね。妙にね…落ち着いてるの。」
考えながら話す倫子を見て、倫也は少し青褪めた。
「ちょ…ちょっと待て、倫子。それ……それってさ、もしかして俺に興味がなくなってどうでもいいからそっかぁって…。」
肩に回した腕を引き抜いて、倫子の両腕を両手で持ち正面に向けて焦りながら訊き返す。
きょとんとした顔のままで、倫子はクスクスと笑い出した。
「違うよぉ〜。ほら、元々私って連絡とかも面倒だし、倫也さんの浮気?結婚してから登録の女性と二人で喫茶店にいたの見ても疑った事なかったでしょ?」
「あ、あぁ、あったな。そういえば。」
言われて倫也も思い出す。
結婚一年目、司の妻、旧姓大沢由香里と有休の倫子が二人で、理也と宇佐美楓の出産祝いを買いに行った日、倫也と女性が二人で歩いているのを見て、由香里が尾けようと言い出し、二人で喫茶店に入るのを目撃した事がある。
由香里が司に言い、連絡が来て倫也が知るまで倫子は何も聞かず、笑顔で普通だった。
弁解の言葉を言っても大丈夫、信じてるから、ときっぱりと言われた。
元々の倫子は一度信用して懐に入れた人を疑ったりしない。
だからこそ、彼氏と親友の裏切りでボロボロになり、立ち直るのに時間が掛かったと言える。
その倫子が妊娠してからまずは良く泣く様になり、自分は駄目だと言うようになり、スマホが鳴ると怪しい目を向けて来たり、気分の浮き沈みが激しくなった。
武藤と対峙してからそういえばそれもないなと、倫也も考えた。
「ね?最近は私、落ち着いてるでしょ?」
笑顔で言われてそうだなと返事をした。
「なんかねぇ、これが産む前の準備なのかなぁ?お母さんの気持ちが落ち着いてないと陣痛来たらパニックになりそうでしょ?華江さんの事は気になるよ?でも倫也さんを信じてる。倫也さんの言葉だけを信じる。だからいつか話してくれるって言うならそれを待ってる。」
「倫子………。」
ガバッと抱きしめて倫子を腕の中に閉じ込め、顔を下に向けて倫子の髪に埋める。
「倫子、大好き。」
「へへ……倫也さん、大好き。」
腕の中で倫子がスリスリと頬を動かす。
その仕草も可愛くて額にキスを落とした。
「ちゃんと話すから、赤ちゃんが生まれたら。華江さんが来ても無視でいいから。」
「あ、それね?任せてもらうっていうのはありかな?」
上を向いて言われて、倫也はあんぐりと口を開けた。
「ま、任せる?倫子に?」
「うん!もし来たらの話だよ?親戚付き合いとかし難くなるかな?怒らせちゃったりしたら…。」
うーん、とまた考える表情をした倫子をぎゅっと抱きしめ直した。
「そんな事は気にしなくていい。笹川家とは親戚と言っても一年に一度、挨拶に新藤の家に来るか、母さんが行くか程度で俺は全くなんの付き合いもしてない。笹川家に大事なのは池上家との繋がりと廉洞家との繋がりだけだから、新藤家はやばい時のつなぎみたいなもんだ。」
「それ…怒らせてもいいって事?」
遠慮気味に聞く倫子に笑顔を向ける。